NIPPON OPEN総括コラム記事
文:FREEFALL編集部 高須基一朗
『二年連続で海外からの刺客に優勝を掻っ攫われた現実』
今年度、国内最高峰のトリックライン技術をぶつけあう大会であった日本オープン。
なんといっても男子一般の部において2年連続で海外勢に優勝を掻っ攫われており、
自国開催で日本人が優勝できなかったことは問題である。
確かに世界最高峰の技術をもつ難敵が2名も来日したことで
日本人が優勝まで上り詰めることは容易ではなかったことは百も承知だ。
その世界最高峰の選手を相手に臆することなく
絶対に勝たせてしまってはいけないという強い気持ちで挑むべきだった。
筆者自身は自国開催で日本人選手がこぞって軒並み倒されていく状況を目の当たりにして
正直、非常に腹立たしい気持ちがこみあげてきた。
木下晴稀選手がアブラハム選手に負けた瞬間も、
中村侑我選手がアリソン選手に負けた時も、
素晴らしい試合内容であったことは間違いないが、悔しいに尽きる。
このコラムを通じて、日本オープンに出場した選手たちには今一度、この危機的な状況をしっかり把握しておいてほしい。
特に会場まで足を運んでいる日本のコアなファンたちは、
日本人が負けるの場面を観たいわけでは決してない。
来年こそは、そのファンの期待を受け止め背負って、彼ら外敵を完膚なきまで力差を見せつけて倒してほしいと切に願う。
さて、その日本人のプライドをずたずたにして気持ちよく決勝戦を戦ったアブラハム選手とアリソン選手。
どちらも大技のクリーンメイクで勝敗の差を広げたいところであったが、ダブルバックのダビングやら要所の大技のタイミングでミスが目立ったアブラハム選手の減点が大きく点数に響き、
最終結果はクリーンヒット数が多かったアリソン選手が優勝となる。
これにて昨年に続き、ブラジル勢の選手が2年連続で『男子一般部門』で優勝である。
優勝後、アリソン選手にショートインタビューの時間をもらいコメントをもらった。
「最高にうれしい気分です。日本の選手はみんなレベルが高いです。ここで優勝できたことを誇りに思います。また機会がもらえるならば日本に来たいです。もっと練習して来ているお客様に楽しんでもらえるようにしたいです。でも本当に楽しかったです」
また優勝賞金20万円で何を買うのかの問いには、
「新車をブラジルで買ってしまったので、そのローンの返済に充てます。あとはトリックラインの練習用のマットを保護するシートが欲しかったので、それをこの賞金で買いたいと思います。」
そして準優勝のアブラハム選手にもインタビューしたところ
「今年はいろいろな国を渡り歩いたので、まずは自国のチリに帰ります。そして、12月にブラジルで大きな大会があるのでそれに向けて練習ですね。」
12月に大きな大会があるというので詳しく尋ねると、
「ブラジルのテレビ局が主催するビックイベントで賞金も大きいので、そこで優勝したいです。アリソンは出場するんですか!?」
その問いにアリソン選手は、
「主催者は知り合いなので、招待の話があれば検討します。ただ、まだ出場するかわからないです。」
とにかく世界中のトップライダーに招待の打診が今後あるようなので、日本の選手にも声がかかるのを期待したいところだが、
そのことについて尋ねてみると
アリソン選手は
「そうですよね。主催者に聞いてみて、ぜひ今度は日本の選手の皆さんにブラジルにきてほしいですね。」
いやはや日本のトップライダーたちの今年度のシーズンは日本オープンが締めくくりかと思いきや、よもや12月にブラジルでリベンジを果たすことが出来る大きな大会への参戦の可能性が生まれたではないか!?
こうなると一年の締めくくりに、今度は日本人選手たちがブラジルのアウェーで優勝を掻っ攫ってほしいと思うところであるが、はたして招待制度の大会で、日本人に本当にお声がかかるのかも楽しみなところではある。
本筋の話に戻そうと思う、 ベスト16で勝利し2日目へ勝ち残りに名乗りを上げた8名の中から、
更に上を目指す試合の中でもサプライズをやってのけたのが中村侑我選手である。
本ウェブコラムでも取り上げさせていただいたが、初日で強豪・石田創真選手を相手にベストバウトをやってのけ勝ち残った勢いをそのままに、
優勝候補最有力の田中輝登選手を準々決勝で撃破。
これには会場にいるお客さんからもどよめきが起こるが、2分間でダブル・バット・バック4度もクリーンメイク。4本目以外は、バリエーションを変えてCOMBOでつなげていたことが勝敗を決めた。
このことが点数差をつけたと解釈できる。
また要所で、フラットスピンを効果的に差し込んだのが戦略としては大きい。
こうして戦略を理詰めで戦った中村侑我選手に軍配が上がったことになる。
ただ、ここで準決勝へ勝ち上がるもアリソン選手に負ける。
これは力量の差だ。
よって3位決定戦へ。
ここで盟友である木下晴稀選手を相手に、前週の「FULL COMBO」大会に続けて2週にわたり、タイトル争いとなる。
海外勢が優勝決定戦へコマを進めたことから、3位決定戦が事実上の日本人の頂点を決める対決となるわけだが、これも非常に僅差であったと思う。
筆者の見解では試合が終わった段階で、もしかすると木下選手をまくったかなと脳裏をよぎったのだが、結果は木下晴稀選手の勝利。
この勝利によって、日本人のJSFed公認2018年度 国内ランキングの頂点については木下晴稀選手となった。
ただ年間総合ポイントでも木下晴稀選手で『GIBBON CUP年間表彰』の優勝は田中輝登選手となる。
少しややこしいので、GIBBON JAPANのポイント授与の計算式をここで触れておこうと思う。
前提として、『JSFedの国内ランキング』と、『GIBBON CUP年間表彰』は別物である。
今年度は3大会開催のGIBBON CUPの順位確定でのポイントの合算で計算。
点数表は下記のURL参照にしていただきたい。
男子は全3大会で
開幕戦がBクラス16人フォーマット
花巻大会がBクラス8人フォーマット
南アルプス大会が16人フォーマット
となるのでBクラス3大会の計算式でなりたつ。
この3大会での計算で、3戦1勝1敗1分けで木下晴稀選手と田中輝登選手が勝率でいえば2人が同位となるのだが、フォーマット違いが影響を与えて年間表彰の優勝で差がついてしまったというわけだ。
ただJSFedの総合ランキングは日本オープン終了後、
3位フィニッシュの木下晴稀選手は+40点。
田中輝登選手は+12点。
最終累計の結果は木下選手が221点に対して田中選手が188点となる。
オフィシャルサイトでも近々、反映される数字かと思う。
点数計算サイト
http://jsfed.jp/ranking.html
「新女王に岡田亜佑美」
そして、女子一般オープンの部。
実は、このトーナメントのことに触れる前に、
こちらも『GIBBON CUP年間総合優勝』の件に触れたい。
GIBBON CUP3大会中2大会で優勝をした須藤美青選手に対して、二度、優勝を逃ししている岡田由美選手がなぜか総合優勝となっている。
この事情とはなぜか!?
JO-DAY1の表彰式での発表時、岡田亜佑美選手 当の本人も首をかしげるほどに驚いている姿があった。
(GIBBON JAPANのYouTubeチャンネルで5時間20分経過あたりにて確認できる)
そして一瞬、表彰式の発表が間違いではないかと会場の空気が凍り付く状況にあった。
ただ、これは紛れもなく岡田亜佑美選手のGIBBON CUP年間表彰において優勝で間違いない。
年間3大会で の内訳は、
岡田亜佑美選手
①開幕戦Bランク8人フォーマットで第3位(19点)、
②岩手花巻大会Bランク8人フォーマットで準優勝(32点)、
③南アルプス山梨大会Bラン8人フォーマットで優勝(48点)、
合計99点
須藤美青選手
①開幕戦Bランク8人フォーマットで優勝(48点)、
②岩手花巻大会Bランク8人フォーマットで優勝(48点)、
合計96点
僅差ながら、岡田亜佑美選手のGIBBON CUP総合優勝となるわけだ。
仮に5月にお台場で開催されたビーチスラックラインCクラス大会の点数を寄与される状況ならば、
須藤美青選手が+優勝32点=128点、岡田亜佑美選手+準優勝19点=118点となり、
須藤美青先週のGIBBON CUP総合優勝となったわけで、
このビーチスラックラインはGIBBON CUPシリーズ戦としてカウントされておらず、
この点数分が誤解を招く事情にあったかと思う。
これはJSFedオフィシャルサイトでも逐一でランキングが更新されていた事情ゆえにし、
山梨大会終了後の8月18日更新で累計の計算式が発表されており
シリーズ戦の合算のように解釈できる。
本来ならば事前に詳細を明らかにして各選手へ連絡・通達するべきである。
とくに須藤美青選手の立場で考えると、このことが事前にわかっていたならば年間優勝のためにも、山梨大会へエントリーだけでもしていた可能性は拭いきれない。
初日の進行中盤にこの表彰式が行われ、ここで自身が総合優勝と呼ばれることに対して高を括っていたところで、発表は岡田選手の優勝となり、興覚めした須藤選手の顔からもわかるように、
この後の明暗を分ける運命を示唆したかのように歯車が刳るい始めている。
ただでさえ、須藤選手は足の怪我の具合が芳しくない事情ゆえに、このことが彼女の精神面での不安を更に助長させてしまうことになったのは明らかである。
気構えある状況で結果を知るのと、意外な結果で落胆することは大きく違う。
2日目の準々決勝で4強に名を連ねたのは、常連である岡田亜佑美選手、須藤美青選手、佐々木燈選手、佐々木優選手の4名。
結果的には実力に勝る2強の岡田亜佑美選手と須藤美青選手が決勝で戦う。
ただ、上記記述の総合優勝のことなどもあり、二人には因縁めいた様々な背景が見え隠れする中で
決勝で戦うのだから因果な物語である。
決勝戦の動画を何度か確認したが、
岡田選手が打ち出したフリップのフィートの完ぺきな成功。
更にナスティーチェストからのブレンダのCOMBO。
これはクリーンメイクではないが点数には影響を与えただろう。
それに対して、フロッグ・フリップでつなぐスタイルが軽微なダブがあった須藤選手。
得意技の一つであるブレンダをコンボで打たなかった事情。
一度だけバット360°フィート横回転を打ったがこれも中途半端にクリーンメイクでなくラインから降りている。
ラストのフロッグ・フィートがメイク出来たらこの勝敗は逆になっていた可能性は高い。
できる技もやらない事情で考えると、怪我の具合はかなり重篤な状況であり、明らかに何らかの影響があったことが伺い知れる。
ただ、須藤選手にはコラム記事を通じて是非とも知っておいてほしい。
この決勝戦で一度たりとも痛い顔をせず胸を張って試合をしている姿には非常に心打たれた。
スポーツ選手として、気丈にふるまう姿が本当に素晴らしかった。
来年は、怪我を治して万全な状態で開幕戦を迎えてほしい。
そしてもう一つ…
岡田選手、悲願達成での優勝…本当におめでとう。
本大会の優勝者は正当な評価の上、岡田選手で間違いない。
『GIBBON SLACKLINES JAPAN』女性ライダーの中で顔役の福田恭巳選手が長期離脱の状況下で、その看板を背負って、常に期待の重圧の中で戦うことが多い1年間であった思う。
その多くの期待を一身に受けて、決勝戦でもプレッシャーで押しつぶされそうな精神状態で、
よくぞ、あそこまで集中力を切らさずに自分の技を出し切ったと思う。
心残りはアラビアンのクリーンメイクかと思うが、来年には、この大技のメイク率を上げて開幕戦を迎えてほしいと願うところだ。
3位決定戦は、やはり佐々木姉妹の対決である。
この3位決定戦の姉妹対決は大方の予想通りであったことは間違いない。
本番に強い佐々木優選手が受験勉強を控えている事情から練習不足であったが
バット・フロント720°のクリーンメイクを成功。
それをきっかけにして次々に先行して大技を成功し続ける姉の絶好調ぶりに、焦りを持った妹・佐々木燈選手は、
要所でミスをしてしまい、
結果、姉の佐々木優選手がJOで2年連続となり姉の威信を守って第3位となる。
持ち得る武器の組み合わせのCOMBOで勝ち切った勝利であり、素晴らしかった。
そして大会終了後、後日談で発覚するのだが、来年には高校へ進学し、
スラックラインではなくダンスを主軸にやっていきたい本人の意向があるというので、
もしかすると今年度の日本オープンの大会が佐々木優選手の競技者としての最終試合になった可能性がある。
専門誌を手掛ける立場としては、もう少し成長を見届けたい気持ちであるが、
本人達ての希望となれば、これはまた致し方のないことかと思う。
『勝てるキッズはいないです』
男子ジュニアは、中村陸人選手がもはや異次元のレベルで戦うので、
敵はいないので危なげなく優勝でジュニア3連覇の偉業をやってのけた。
来年はオープン部門で参戦するというから同世代の先にオープンへ挑戦している、
田中健介選手に林映心選手とともに、ここに中村陸人選手を含めた『スラックキッズ三銃士』が、大人たちをどれだけ打ち破ってくるのかが楽しみなことだ。
また、中村陸人選手が抜けたことでジュニア部門の勢力分布が大きく変わる。
大沼選手に大戸元気選手と今後の成長が楽しみな選手の活躍に期待がかかる。
ジュニア女子は、急成長の岡澤恋選手と山森さほ選手。
とくに岡澤恋選手は、JOまでに成長した姿を見せつけて決勝舞台へ上りつけたので素晴らしかった。
今後は両者がブレンダの完成度を更に上げて、つなぎのCOMBOに組み込めるだけのレベルに仕上げるべきである。
加えて、来年4月までに縦回転の技を一つ武器にできる状況になれば、この二人が2019年のジュニア女子の舞台で中心人物に浮上するであろうことが予想される。
そこに竹部茉桜選手に渡辺莉央選手のMAO&RIOコンビが、どう迎え撃つのかという戦況になるかと思う。
楽しみだ。
『太田朋史選手がマスタークラスの中心となった』
マスタークラスは、太田選手の飛躍の年であったと思う。
文句なしに実力差をつけてのJOマスタークラスの覇者である。
昨年の碧南でのクラス別選手権時に比べると、明らかに落ち着いて試合運びをしている点。
クリーンメイクの縦の回転軸技が多くなっていた。
あと数年は、この太田選手を中心としたマスタークラスの舞台となるが、ここに割って入るように大物ライダーたちが2019年から参戦してくるとなると勢力分布にも大きな変動があり面白くなる。
また、このクラスで悲願達成となったのが中村学氏。
ご存知、中村陸人選手の父君である。
これまでマスタークラスで決勝戦の舞台へ上がることが一度もなかった選手であるが、この大舞台で
準々決勝で舛岡選手を撃破し、決勝戦へ上り詰めた。
勝敗を左右したのはフェアレスである。
クリーンメイクではなかったものの、メイク後に落ちない粘り強さが勝敗を左右した。
素晴らしかった。
そして決勝舞台でも太田選手との力差は歴然であったが、ここでもフェアレスを成功させて、会場を盛り上げた。
持ち得ているチカラを出し切っての準優勝ゆえに、喜びも一入であろうかと思う。
ちなみにラインスペックについても少し触れておこうと思う。
マット高はジュニア部門で約120cmに8キロニュートンのテンション。
オープン部門では約154cmであり10キロニュートンのテンションであった。
これは今後のオフシーズンの練習環境の参考にしておいてもらいたい。
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